学生時代からテレビゲームやエロ本にはまっていた俺には、これといった趣味や興味のある事がなかった。接客業にたずさわる上では致命的である。お客さんと会話する際の【話のヒキダシ】が少ないのだ。さらに典型的なB型である俺は、自分の話ばかりしていた。
ある日、孔明店長は俺に休日の過ごし方を尋ねた。当時、俺は借金の返済もあり、ギリギリの生活を送っていたので、休日は出費を控える為に外出はしない。そう答えると孔明店長は【出入口の法則】について話してくれた。これはよく自己啓発本等ではメジャーな題材であるが、俺は初めて聞く法則について興味をもった。
孔明店長
『出入口の法則ってのがあってな』
『お金を使わん所には、お金が入ってけえへんね』
『出さないと、入ってこないってやつ』
『例えば、自分のお金でバーに呑みに行きます・・・』
『どんな呑み方する?』
俺
『一杯だけ注文して、キョロキョロします』
『お酒以外の何かも勉強したいですし』
『バーテンダーですから』
孔明店長
『そやろ。そこでお前はお金を出しました』
『そして、何かを学びました』
『その後、勤めるお店で実践しました』
『上司から評価を受け、時給が上がりました』
『出した後、入ってきてないか?』
『呑みに行かずゴロゴロしてたら、どう?』
俺
『ホンマですね。』
孔明店長
『自分への投資になってるやろ』
『お店に行ったり、出かける事で何かを学ぶ』
『そして、それは経験になり』
『経験は会話のヒキダシにもなるやろ』
『とにかく、何事にも興味を持ってみろ』
『お前、お客さんに自分の話しかしてないやろ?』
『顔ゆがめて聞いてるお客さんに気付いてるか?』
今までの自分の接客を思い出し、恥ずかしくなった。孔明店長は俺の弱点を的確に見抜き、克服する為の【気付き】を再び与えてくれたのだ。
自分で苦労して稼いだお金を使う事によって、その重さを学ぶ。お客さんもそんなお金を使って、自分の作ったカクテルを飲んでくれている事を忘れてはならない。自分への投資は必ず、形を変えて自分に返ってくる。そうして得たスキル(会話のヒキダシ・バーテンダーの知識やテクニック)を活用し、お客さんに還元する事により、自分達のお給料が発生している事を忘れてはならない。俺は孔明店長の教えをそう解釈している。