ナルシス2世のブログ

エッセイ仕立てに構成。
第一章では高校生時代の入院記を
第二章では高校を卒業してからの職歴と、その中で出会った素晴らしい先輩方とのご縁や学び、エッセイを書く事になった経緯を記録した内容。

其の5 念願のショットバー エピソード⑦おまけ【科埜政武ホモ伝説】

自衛隊にいた経験があって痔持ちだという事を知られると、ある疑いがかかる事であった。それは『科埜政武ホモ伝説

ホモセクシャルを軽蔑する訳ではないが、そうでないのに疑われたり、思われたりすると辛いモノがある。違うとムキになって反論すればするほど、ドツボにはまってきた。

今となってはもう言われ慣れてしまったので、反論しない事にしている。思う人は勝手にそう思っていてくれればいい。その人にそう思われても、結局のところ俺には何のデメリットもない。最初は辛かったが、そう考える事にしてから楽になった。俺にとって大切な人や、俺を大切に思ってくれている人達は口には出さないし、出しても冗談で軽く流すだけだった。「実際はどうなん?」とか真剣な顔で聞かれるとかなり引いてしまうが、笑いながら「どうでしょうね。」と笑顔で答えるようにしていた。

残念ながら、自らまいた種なのだ。お客さんに顔を覚えてもらう為とはいえ、痔の手術を経験した話や、海上自衛隊に勤めていた事を話した俺が悪い。でも、その瞬間の俺のハラワタは煮え繰り返っている。イジケているみたいなので終わる。

 

このようなエピソードと共にたくさんの事を学び、少しずつ俺の芯たるモノが確立されつつあった。孔明店長との出会いは俺にとって、大きな分岐点となった。孔明店長がこのバーを退職する時に、一つのお願いをした。もしも、孔明店長が自身のお店を開業する時は声を掛けて欲しいと。ただの口約束だが、約5年後に孔明店長は大阪市内で開業し、約束通り声を掛けてくれる事になる。

其の5 念願のショットバー エピソード⑥【タバコ】

バーテンダー時代はお金の使い方、人との接し方、物の見方・考え方、生活習慣等、一番変化のあった時期でもある。大嫌いだったタバコも吸うようになった。孔明店長の何気ない一言がきっかけだった。

 

『タバコを吸った事のないお前には無理やけどな』

 

悔しくてたまらなかった。その一言に至るまでの会話もあるが、そこまでの思いになったのには、俺なりの理由がある。

お酒が弱い俺にとっては、バーテンダーとしてのスキルアップに障害は多い。しかし、縁あってこのお店を紹介してもらい、憧れを持って飛び込んだバーテンダーの世界である。俺は、毎日必死だった。

お店にある数多くあるウィスキーの味の違いを知る為、早めに出勤する許可をもらい、毎日2~3種類を味見してテイスティングノートに記録する。帰宅後は本で知識を頭にぶち込む。カクテルのレシピは書店でカクテルブックを立読みして覚え、書店の外でメモをとる。お金がなかったので、その繰り返しでカクテルを勉強していった。少しお金が貯まれば、カクテルブックやバーテンダー関連書物を購入してボロボロになるまで読みまくった。今ならインターネットも普及し、スマートフォンで調べる事もできるが、当時はそれくらいしなければ学べなかった。ここまで行動を起こしたのも、孔明店長の影響がある。

知らないカクテルのレシピを聞いた時に、時給をもらいながら人に教えてもらおうと思うなと言われたのだ。【見て盗め】スタイルの指導である。実際に調べればわかる事は教えてくれないが、調べようのない事、仕事をする上での考え方の基本は惜しみなく伝授してくれた。

営業中は孔明店長や先輩の動きを観察し、カクテルの作り方や接客を盗み、自分の反省と共に【怒られ帳】に記録していく。この【怒られ帳】も孔明店長に言われてやり始めたモノである。同じミスを繰り返す事が多々あり、孔明店長に呆れられながら提案されたのだ。これは効果があるので、俺のように覚えの悪い人には是非試して頂きたい方法である。

そんなある日、孔明店長はカクテルのレシピについて話してくれた。カクテルブックに掲載されているレシピはベースとして知っておくべきであるが、それが全てではないと言う事から始まった。お酒が強い人・弱い人色々なお客さんがいる。更にサッパリ辛口~甘口まで味の好みも様々。同じカクテルでも、そのお客さんの好みに合わせた味になるように配合を変える事が出来れば、プロのバーテンダーに一歩近づく。バーに来る前に何を食べてきたか、一緒に来ている人が仕事仲間か上司、友人・恋人・嫁さん・旦那さん・愛人・ホステス・口説いてる相手かの人間関係を見極め、空気を読んだ調整を行う事もある。

喫煙者かそうでないのかでも、微妙な調整が必要だと教えてくれた。タバコを吸っている人の味覚は鈍くなるので、言われてみれば納得のいく話である。そして最後に・・・

 

『タバコを吸った事のないお前には無理やけどな』

 

悔しかった俺は、孔明店長には内緒でその日から喫煙者となった。孔明店長の一言で喫煙者になったのではなく、きっかけで自ら選択した道だ。

賛否両論はあろうが、この一言を聞いた時の俺の感情や行動を理解頂ける方もいると思う。孔明店長は実際、元喫煙者なのだ。

其の5 念願のショットバー エピソード④【読書】

話下手な俺は、伝達事項や接客においても失敗を繰り返し、時にはお叱りを受ける。追い打ち要素として、南河内の富田林という田舎出身の俺は、河内弁で言葉使いがきたない。同じ大阪弁にも細かい違いがある事を、その時に初めて知ったのである。市内の一等地にあるこのバーには、様々なお客さんが来店する。品のある大阪弁または標準語は使用可能だが、河内弁禁止令が出た。

そんなある日、孔明店長は俺に一冊の本を貸してくれる。

 

『お前は言葉を知らなさ過ぎる』

『本を読んで色々な文章や言葉に触れてみ』

 

借りた本のタイトルは【毎日が冒険】だった。この本との出会いは、今後の俺の人生にも大きな影響を与える事になる。俺が普段から本を読まない人間である事を知っていた孔明店長は、まずこの本を選んでくれた。文字は大きめ、文章は横書き、所々にイラストが入っている。

 

【毎日が冒険】は本場テキサスでのカウボーイ修業に始まり、無一文&未経験&コネなしから、自分の店を始めたり、自分の本を出版したり、自分の会社まで創ってしまった25歳の自由人が語る爆笑サクセス・ストーリー。

amazon.co.jpより抜粋)

 

著者の自伝で、高校生の頃からの経験談を面白可笑しく、テンポのよい流れで構成されているのだが、バーを自分達で始めた話もあり、当時の俺には、非常に興味を持ちやすい内容だった。実際、本を読まない俺でも、一日で読み切れた。孔明店長には俺に本を読ませ、接客・会話力の向上という目的の他に、別の狙があったのだ。行動力である。その本には目標に向かって、ガムシャラに突き進む、著者の行動力・考え方がガンガン書かれてある。

自分の歩んできた道や考えが、どれだけチッポケだったのかと良い意味で刺激を受けた。

個人的にこの本は、今でもオススメできる一冊だ。

結果的には【毎日が冒険】をきっかけに少しずつ、読書が楽しくなっていった。読書と並行して、テレビで天気やNEWSをチェックしたり、バラエティ番組で司会者のトークを意識して観はじめるようになる。視点が変わり、世界が広がっていく感覚だった。

 このように、孔明店長は俺の弱点を1つ1つ潰していってくれたのだ。