ナルシス2世のブログ

エッセイ仕立てに構成。
第一章では高校生時代の入院記を
第二章では高校を卒業してからの職歴と、その中で出会った素晴らしい先輩方とのご縁や学び、エッセイを書く事になった経緯を記録した内容。

其の三 キャバクラのボーイ

大阪の実家に戻った俺は、将来の事を再構築し始める。今の自分が一番興味あって、楽しい事は何かを考えていた。

『液体の宝石リキュール』・・・これを扱う華のある仕事はバーテンダーしかない!アメリカへいってバーテンダーの修行をしよう。トム・クルーズ主演映画『カクテル』の主人公のようなバーテンダーになって、自分のお店を持って、たくさんの美女にモテまくる!これが俺の新たな夢になった。馬鹿らしいほど単純な発想であったが、ワクワクが止まらなかった。

夢を実現させる為には、英会話力とアメリカで生活する為の資金がいる。短期間で過去につくった借金を返し、資金を貯める方法を考えた。

求人雑誌を購入し、高収入バイトを探してみるとホストクラブがブッチギリだった。【基本給+歩合】とも書いてあり、【頑張り次第では・・・】なんてコメントを見て、即効で応募した。ナルシストを自負するほど、自分のルックスと内面に根拠のない自信を持っていたので、張り切って面接を受けにいったのだ。その場で翌日からの採用を頂いたものの、採用された事に満足し、帰宅途中に意味不明の断り連絡を入れた。初めての夜の世界にビビっていたのもあるのだが、何かがホストクラブへの道を阻んだ。

気を取り直し、次の高収入バイトである【キャバクラのボーイ】の面接を受け、即採用を頂いた。今度はビビっている場合ではない。夢の為にはお金がいる。見た目は華やかな世界だが、とても神経を使う仕事だった。

 基本的には男性客を対象に、美しくセクシーに着飾った女性達(ホステス)が、お酒や会話で場を盛上げて接客をするお店である。お店によって提供している酒類は違うが、当時はウイスキーやブランデーが主流で、飲み方も日本人特有の水割りが多かった。

ボーイの仕事は黒子に近い仕事だ。ホステス達の接客を邪魔しないように存在感を出し過ぎず、そしてスムーズに仕事ができるように、常に緊張感をもってテーブルを見ておかなくてはならない。仕事内容の一つに、水割りで使う氷やミネラルウォーター、灰皿の交換がある。タバコやガム等を近くのコンビ二までパシったりもする。

ホステス達はお客さんとトークしながら、氷やミネラルウォーターが少なくなると、お客さんに気付かれないように決められたサインをボーイに出す。(お店によってやり方に違いはある)これは、せっかく盛り上がった会話を止める事なく、足りなくなったモノを補充したり、いらなくなったモノをさげて、気持ち良く時間を過ごしてもらえる空間をつくる為である。だから、俺達ボーイはホステスのサインを決して見逃してはならない。

 慣れてくると、ホステスがサインを出す前に交換できるようになる。そうするとホステスも仕事がしやすくなり、ホステスに認められる。認められれば、そのホステスのお客さんに紹介してもらえる事があった。お客さんにも認めてもらえれば、仕事のやりがいも増す。

紹介される時に気を付けていた事は、できるだけ長居しない事。お客さんは俺と話をしに来ているのではなく、ホステスとの会話、お酒を時間制で楽しみに来てくれているのである。お気に入りのホステスに紹介されて、仕方なく話しかけてくれている可能性もあるのだ。だから手短に聞かれた事だけをハッキリ答え、会話しながらもテーブルの状況を確認しておくのである。そして、去り際に仕事を一つでも見つけて自分との会話を切りやすくする。

それ以外にも、お客さんの顔とタバコの銘柄を確実に覚えておけば、次回ご来店時にタバコを頼まれれば、銘柄を確認する事なく、即座にパシれるのだ。タバコに限らず、よくテーブルを見ると色々な事に気付く。自分がお客さんだったら【何をして欲しくて、何をして欲しくないか】なのだ。お客さんを酔っ払いだとナメてかかると、大変な事になるし、失礼極まりない。覚えていないお客さんもいるが、酔っていても記憶が残っているお客さんもいるのだ。色々なパターンがあるので、絶対はなかった。

失敗もたくさんした。最初はミスをするたびに、上司に殴られた。殴られるのは自衛官当時よくあった事で、上官の拳に比べれば威力は弱い。殴られても、喰らいついて仕事を教わった。仕事ができるようになってくると、上司にもお客さんにも可愛がってもらえた。新しい仕事や、接客のコツ、マナーなど色々教えてもらえるようになっていった。楽しくなってきた頃、キャバクラの仕事を嫌がっていたジイちゃんとバアちゃんに頼まれたので、あっさりと辞めた。



その後、コンビニ・居酒屋のアルバイト、屋台のパスタ屋をしながら、借金の返済を続けていた。夢の実現に向けて、とにかく空いている時間はひたすら働いた。

半年くらい経った頃、以前勤めていたキャバクラから臨時で戻ってこないかとお誘いもあり、週末だけジイちゃんとバアちゃんに内緒で高額収入バイトも復活させていた。この時に出会った上司とは、ご縁があり今もお付き合いをさせて頂いている。

年齢は俺の10歳上の男性。一緒に働いている時は【神】と崇めたほどだ。(以後ゴッド先輩)自分にも厳しいが、部下にも容赦はない。見込みのない人間と判断すれば、あっさり切捨てる冷酷な男である。

ゴッド先輩は頭の回転も速く、人の考える先の先まで考えて動くので、一緒に仕事をしていても最初は指示された内容についていけない。理解できないまま指示通りに仕事をしていると、結果なるほどとなるのだ。ある程度はついていけるようになるが、なかなか難しい。彼は瞬間的判断力もあり、人の使い方が上手だった。司令塔としてゴッド先輩を超える人物には、未だ出会っていない。

更に彼は凄まじいタフさを持っている。酒は強い・女好き・ギャンブル好き・仕事は朝から会社員をしながら、夜もガッツリ働いている。いつ睡眠をとっているのかと思うくらい、仕事も遊びも半端ではない。そんな男ではあるが、認めた相手に対してはムチャクチャ面倒見がいいのだ。俺は有難い事に、よく食事に誘ってもらった。仕事話を熱く語ったり、男同士のバカ話で盛上ったりしながら、多くの事を学んだ。厳し過ぎるとは思うが、彼を心から尊敬し、彼との縁には感謝している。

 

話は戻り・・・

休日にショットバーの面接巡りを始めたのだが、『経験者でなければ』と断られる日々が続いた。雇ってもらえないのに経験なんて積めない。だからと言って、諦める訳にもいかない。この粘り根性は自衛官時代に構築されていたのだと思う。

もがいたあげく、【サントリーバーテンダースクール】をみつける。(現在は存在しない)

早速申し込んだ。数か月の学習期間を終え、修行書を発行してもらう事に成功!これで面接時の強みなると確信した俺だった。再びショットバーの面接巡りを始めるも、惨敗が続く・・・。

優先順位を変え、アメリカへ行って修行しよう!でも英語が話せない。思い切って英会話スクールへ通い始めるが、これは失敗だった。最初は楽勝だったが、カリキュラムが進むにつれて難易度が高くなり、とうとう諦めてしまったのだ。授業料のローン60万が、返済中の借金にのしかかる結果となった。