ナルシス2世のブログ

エッセイ仕立てに構成。
第一章では高校生時代の入院記を
第二章では高校を卒業してからの職歴と、その中で出会った素晴らしい先輩方とのご縁や学び、エッセイを書く事になった経緯を記録した内容。

ポジティブからネガティブへ

夕方になり、バアちゃんは家の夕食の準備があるので帰っていった。入れ違いで同級生3人が見舞いに来てくれた。この3人の同級生は俺の数少ない友人であり、奴らにしか痔で入院する事は話していなかった。当時、俺には付き合い始めたばかりの可愛い彼女がいたが、もちろん何故入院しているかは極秘事項である。

見舞いに来てくれた友人達は、なかなか気の利く連中でアップルパイを持って来てくれていた。ゆっくり話しでもと思ったが、狭い2人用の病室に患者の俺とAさんがいるうえ、Zさんに友人3名が入れば圧迫感もあるし、Aさんにも気を使う。談話室に行こうにも、俺はまだ長時間において座る事も立つことも出来ない。友人達も気を使ったのか、長居しないで帰っていった。

この日も大便は出なかったが、俺にとって23日は大便が出ないのは特別な事ではない。それよりも、毎日2回行われる点滴に嫌気がでてきた。朝の回診時にお尻の消毒とガーゼ交換、点滴をされるのだが、既に6ヶ所も腕に穴があいている。そして患部にバイ菌が入らないように入浴を禁止されていたので、まる3日間風呂に入っていない。その状態は非常に気持ち悪く、ポジティブな俺も少しネガティブになりつつあった。

痛みを紛らわせる手段

118日(木)手術後第2日目)

この日はルームメイトAさんの世話役としておばちゃん(Zさん)がやって来た。Aさんには身寄りがなかったようで、Zさんが専門機関から派遣されてきたのだ。Zさんは明るい性格で、よく喋る楽しい人であった。バアちゃんとは年齢が近かった事もあり、気が合って見舞いに来た時はよく長話をしていた。

そして俺はというと、お尻の痛みにも多少慣れつつあった。別に痛みが弱くなった訳ではない。どんな動作をすればどれだけの痛みが襲ってくるか、何となく掴めるようになっただけである。

俺は大の耳かきフリークで、最低12回は耳をかく。その間は神経が耳に集中するので、お尻の痛みを紛らわすには効果的だった。更にお尻ばかり意識が行かないよう、美人看護婦さんと仲良くなるのを目標として掲げた。この病院には可愛い看護婦さんが数人おり、眺めているだけで癒しになる。

自分ではそれくらいしか思いつかなかったが、実は俺の苦しみを紛らわせてくれた最大の要素はバアちゃんの存在だった。入院中に欠かさず見舞いに来てくれ、愚痴を聞き、退屈しない為のアイテムを持って来てくれた。決して家から病院までは近くない。ましてや車の免許のないバアちゃんにとれる交通手段と言えば、電車か自転車となる。申し訳ない反面、実に有り難かった。俺は一生忘れる事はない。

最初の痛み

117日(水)手術後第1日目)

昼食前にバアちゃんが見舞いに来てくれた。手術中での出来事を話している時、ある事に気付く。お尻のほうで痛みを感じ始めていたのだ。持続する痛みではなかったが、ベッドから立ち上がる時、寝返りをうつ時にも痛みがはしる。俺はこの痛みを軽視していた。

だがバアちゃんはこれから麻酔も完全にきれて、痛くなってくると言う。俺は強がって大丈夫だと言い張った。バアちゃんはとても心配性で、俺が気にしない細かい事にまで気を使う人である。いつものように心配しすぎて、大袈裟に言っているだけだと気にもしていなかった。

1人になってからバアちゃんの予言通り、昼間とは比べものにならないレベルの痛みになってきた。そんな状態で大変なのが、小便をする事であった。本来であれば尿意を感じてから尿をたすのは、特別な動きではない。【ベッドから出る→トイレまで行く→尿をたす→病室に戻る→ベッドに入る】これだけ。今の俺にとっては、ベッドから出る時から痛みが伴う。

仰向け状態から1度ベッドに座った状態に体を起こすのだが、その動作が辛い。こんな時でも肛門周辺の筋肉を使っているのだ。ここでまず激痛。トイレまで歩くのも一苦労・・・11歩と歩くたびにも痛みが伴う。やっとトイレへたどり着いても、小便をする間のわずかな時間ですらズキズキと疼く痛みがある。

男性なら何となく分かってもらえると思うが、尿を出し終わった後の仕上げとして尿管に残った最後の尿を搾り出す動作をする時、実は肛門の筋肉を無意識に使っている。溜まった尿を出し終えた爽快感の代償として、歩くたびに訪れた痛みとは比べものにならない痛みが襲ってくるのだ。【刺すような痛み】というヤツが2撃、俺の肛門を襲う。初めての時は、予想もしない突然の痛みに思わず声をあげ、その場で飛び跳ねて驚いた。

思い出しただけでも嫌になる。とにかく何かしようとすると、必ずそういった感じで痛みがついてくるのだ。最初の痔の恐怖を、そして痛みを味わう事となった。俺はこの初めて経験する痛みについて、長くは続かないであろうと自分に言い聞かせていた。

この日、小便はしたが大便は出なかった。前日に極太浣腸を3回もされ、出るものは出尽くした感じなので不思議な事ではない。ところが、これはまだ辛い痛みと排便物語の序章に過ぎなかったのだった。