ナルシス2世のブログ

エッセイ仕立てに構成。
第一章では高校生時代の入院記を
第二章では高校を卒業してからの職歴と、その中で出会った素晴らしい先輩方とのご縁や学び、エッセイを書く事になった経緯を記録した内容。

其の一(海上自衛隊)

社会人第一歩は海上自衛隊!大学への進学を選ばずに、海上自衛隊に何故入隊したか。この作品の冒頭部と重複するが、祖父母に育てて頂いた俺は、軍隊に興味を持ち、強い男の生き様に憧れた。特に惹かれたのは、ジイちゃんに聞いた特攻隊の話しだった。

国を守る為、自分の家族や大切な人の為に、自らの命をかけて敵戦艦に特攻していった当時の日本男児。美化するつもりはないが、俺は敬意を感じた。決め手はトム・クルーズ主演映画『トップ・ガン』を観た事だった。俺は戦闘機乗りになる!目は良かったし、体力にも自身はあったが、学力が足りなかったので戦闘機乗りへの夢は遠かった。すぐにでも入隊したかった俺は、海上へと夢を膨らませる。

バアちゃんからの情報では、昔の海軍は陸軍やパイロットよりも女性にモテたらしい。ハイテンションで自衛隊のパンフレットを見ていた時、素晴らしい事に気付く。海上自衛隊の制服は、トム・クルーズが着ていた制服とデザインが、かなり似ていたのだ。希望は一気に海上自衛隊へと膨らんだのだ。何故、戦闘機のパイロット役であるはずのトム・クルーズの着ていた制服が、日本の海上自衛隊の制服と似ていたか。映画を観た人は分かると思うが、トム・クルーズは海軍のパイロットなので、空軍ではないのだ。アメリカには空母があるので、海の上からでも戦闘機を離着陸させる事ができるが、日本には空母がない。だから日本の戦闘機乗りは、航空自衛隊になってしまう。

長くなってしまったが、入隊までの流れで分かる様に全く痔の事なんぞ考えてもいない。実に単純な理由で海上自衛隊に入隊したのだ。

 

高校卒業後、予定通り海上自衛隊に入隊。まずは教育隊で4ヶ月間は基礎訓練・学習期間があり、その課程を修業後に各部隊に配属されていく流れであった。

最初の4ヶ月までは良かった。日の出と共に起床ラッパで目を覚まし、整列。国歌が流れ、国旗掲揚、適度な運動をしながら夜を迎える。昼間の運動で体も疲れ、23時なんかには完全に眠りにつく。とても理想的な規則正しい生活である。

部隊に配属されれば、そうはいかない。自衛隊は24時間体制の勤務である。確かに一般からすれば休みは多いが、決して楽な仕事ではない。当直があり、出港すれば港に停泊するまでは4交代、訓練になれば3交代制にもなる。それに並行して演習が始まれば、寝る事もできないままの時もある。

朝起きて、夜になれば温かい毛布に包まれて深い眠りにつく事などはできない。特に新米は覚える事や仕事が多い。自分が何もしなければ、仕事なんて誰も教えてなどくれない。

 

  1. 身近な先輩の仕事をとり、やり方を聞いて仕事をする。

  2. 1つ覚えれば、更に先輩の次の仕事をとる。

  3. ①と②を繰り返し、復習をする。

     

    そうすれば、お前は先輩にも可愛がってもらえるだろうし、仕事も同期の奴らより早く仕事を覚え、立派な海上自衛官になれる。

     

    これは教育隊で訓練中に教官から教わった事だ。

    俺は必死だった。痔の再発を気にしていては仕事なんてできない。必然とタブー(不規則な睡眠は避ける)を破っていく。護衛艦に配属され、就いた分隊は攻撃分隊と呼ばれる第一分隊。第二分隊は航海科分隊、第三分隊は機関科分隊、第四分隊は補給分隊と大きく4つに分かれる。

    そこから更に細かくいくつかの班に分かれる。俺は攻撃分隊の射撃と呼ばれる班に所属していた。どんな仕事かを一言で言うのは難しいが、護衛艦の先に付いている大きな大砲関係の仕事が主な仕事である。他にも色々あるが、本題に関係ある仕事だけ紹介しておく。

    大砲を扱うわけであるから当然、弾も扱う。弾といっても、あの巨大な大砲の弾なので拳銃の弾なんかの重さの比ではない。重い物を持つと、力んでお尻に力が入る。これは排便でキバル時と同じ様な事なので良くない。しかし持たないと仕事にならない。ここで2つ目のタブー(力む事は避ける)を破っている。

    もう1つの致命的な仕事は航海中の見張り業務である。船に艦橋と呼ばれる場所がある。簡単に言うと船の指令塔のような所で、舵やレーダー等があり、海図を広げ船の進路を決定する場所である。その艦橋の両サイドに吹きっ曝しの見張り場がある。

    そこは航海中、1分隊(下っ端)の仕事場になる。どんなに寒くても暑くても、雨が降ろうが雪が降ろうが、海が荒れようが、双眼鏡を覗いて艦橋に前方の状況を報告するのが業務だ。海の荒れが酷くなれば艦橋の中からの見張りになるが、それ以外はそこが航海中の仕事場になる。寒い時はいくら着こんでも、自然の寒さには勝てない。寒い日は、お尻が痛かった。ここで更に3つ目のタブー(冷やす事は避ける)を破っている。

    4つ目と5つ目のタブーは意地でも回避した。酒とタバコである。仕事のストレスからか、同期でタバコを吸わなかった奴等まで吸うようになっていった。それでも俺は意地でも吸わなかった。もう1つの酒も断固として断りつづけた。

     

    「あいつはノリが悪い。」

    「アイツは飲まないから面白くない。」

     

     いくら言われても関係なかった。上官に言われれば少しは飲んだが、健康的な俺は異常な程に顔が赤くなる為、上官も無理には勧めなかった。今思えば、上官にも恵まれていたのだ。

    痔の手術をした話しをしていた事もあり、酒を飲まされる機会もなくなっていった。食生活にも気を使い、食物繊維などのお通じにいい物を極力摂取するようにした。それでも3つのタブーを破りながら日々を送っていたので、便秘症とイボ痔の再発は避けられなかった。1年と4ヶ月で退職したが、自ら選んで進んだ進路であるし、今でも後悔はしていない。

    トム・クルーズが着ていた、カッコ良い金縁の入った制服は幹部にならないと着る事はできなかったので、セーラー服しか着ていない。学んだ事はかけがえのない財産となったが、当時のアルバムは開きたくない思い出となった。

    大きな希望と憧れを抱いて入った自衛隊だが、理想と現実は大きくかけ離れていた事と、他の事に色々と興味が湧いてきた俺は次のステップへと歩み始める。

    余談になるが、自衛隊にいた頃のボーナスで憧れの原付『ジョーカー』を買った。後ろ姿に魅入られて、病院をハシゴする事になった因縁の原付である。