ナルシス2世のブログ

エッセイ仕立てに構成。
第一章では高校生時代の入院記を
第二章では高校を卒業してからの職歴と、その中で出会った素晴らしい先輩方とのご縁や学び、エッセイを書く事になった経緯を記録した内容。

ホームシック

1111日(日)手術後第5日目

『痛み』『孤独』『便秘』『恐怖』、毎日2回の『点滴』、動けない事による『退屈』で、とうとうホームシックにかかった。

恥ずかしながら、家が恋しくてたまらなかった。優しいバアちゃんの手料理、難しい顔でいつも本を読んでいる偉大なるジイちゃんの存在、週末くらいしか見ないオヤジの顔、バカで明るいだけの弟、生意気で元気な妹が懐かしく思い始めていた。

そして俺の体は、ある意味ボロボロになってきていたのだ。腕は点滴の注射針の跡で醜くなり、風呂にも入れないので髪は脂ぎってくる。実にマイナス思考のナイーブ野郎になっていた。

非常に情けなかったので誰にも言わず、日記にだけこの思いを書きつづる事にした。しかし俺は日記に思いのままの心境を書く事で、後に俺自身がどういう奴のか気付く事になる。実に寂しがり屋にも関わらず、見栄っ張りで強がりを言いたがる変なプライドを持った軟弱な男である事に。あの時の俺があるからこそ、今の大好きな俺が存在するのだが。

20歳を過ぎた頃から自分の事をバカだと思った事はあっても、自分を嫌いになった事は1度もない。むしろ真逆のナルシストである。現在でも強がりは言うが、素直に思った事は認めて口に出すようにしている。自分に正直に生きている方が、気持ちの良いものだ。別にホームシックにかかった当時の俺を正当化したいが為にそう思うのではなく、俺は俺が大好きなのでそう思うのである。

入院する事により、家族の有り難みや大切さを身に染みて実感する事ができた。気付くのが遅いと言えば遅いのだが、今思えば俺の甘えが浮き彫りにされた瞬間であり、今後の俺の人生に大きく影響を及ぼした経験になる。

ホームシックにならない為には、まず甘えを捨て自立心を確立する必要がある。誰かがやってくれるという依存型の考えではなく、俺がやる俺じゃないと駄目だという自立型の考えで何事にも臨めば良い。この考えは社会人になってから役に立った。第三者に責任を押付ける事なく、自分自身に原因をもとめて臨む事により、責任感も大きくなり、自身のスキルアップにも繋がった。日本男児の俺にとってホームシックにかかった事は汚点であるが、反面プラスになり俺を強くした。

しかし所詮は人間、1人では何もできないのである。支えあい協力し合った方が、倍以上の成果を上げる事ができる。だからこそ、個々が他力本願ではいけないという俺の中の哲学が生まれた。人生を悟ったみたいに偉そうに書いているが、これは現時点で勝手に思っている個人的な俺の哲学なので人に説教じみて話す気は毛頭ない。

 

入院中は悠長にそんな深くまで考えていない。考えているのは単純に大便を出す事だけだ。

夜中に少し便意を感じたので、無理からに痛いのを我慢して出してやった。スカみたいに軟らかく細い便が少し出ただけであったが、久々の排便に満足した。でも痛かった。その日は安心したせいか早めに眠りにつけた。